今回は少し前に手がけた屏風の修復について。
昔からお付き合いのある90歳のお客様からご連絡をいただきました。
「子供の頃から家に立っていた屏風を直してほしい」
お電話口の声に、その屏風への思い入れがにじんでいました。
実際に拝見すると、長い年月を経た屏風は茶色く焼け、ところどころに傷も見受けられました。おそらく80年近く、この方の人生とともに在り続けてきた作品です。主に水墨で描かれていますが、一部に着色もある。焼けた表面をすっきりきれいにしみ抜きをしてほしい、というご依頼でした。
まず最初に行ったのは、剥落止めの作業です。着色部分に水気が触れると顔料が剥がれ落ちてしまう恐れがあるため、先に止めておく必要があります。これを丁寧に済ませてから、いよいよ洗いへと進みます。
水で洗いながらある程度の汚れを浮かせつつ、頑固なしみには薬品を使います。薄めた薬品で慎重に慎重に。この作業は他の仕事と並行することができません。一つ間違えば、取り返しがつかないことになります。この日は朝から丸一日、この屏風だけと向き合いました。
ちょうどよいタイミングを見計らいながら薬品を除去して、乾燥させ、裏打ちへと進んでいく。「頃合い」というのが表具の仕事には多くて、これは経験と感覚の積み重ねでしか養えないなと改めて思います。
仕上がりを見たとき、「ああ、よかった」と思いました(写真でも伝わるといいのですが)。
お客様にお届けしたところ、大変喜んでいただけました。なんでも、ゴールデンウィークに親戚が集まる機会に披露されるそうです。
90年の人生の中で、ずっとそこに在り続けた屏風が、きれいになって家族みんなの前に立つ。そう思うと、こちらまで嬉しくなります。
喜んでいただけることが、何よりのやりがいです。
作業前

作業後
